

映画祭最終日、授賞式の場で審査員長を務めたアラン・ラッド・Jrが「とても難しい審査だった」と発言したことからも分かるように、本年度のコンペ部門は例年以上に秀作が多く、混戦が繰り広げられた。その結果、栄えある最高賞の東京サクラグランプリを受賞したのはイスラエルとフランスの合作映画『迷子の警察音楽隊』だった。イスラエルに招かれたエジプト警察音楽隊の珍道中を軸に、アラブ人とユダヤ民族の交流を描いた同作は、言葉や国境を越えて人間が“人と人”としてつながり合えることを訴えるハートウォーミングな内容で、その普遍的なテーマが高く評価された。すでに今年のカンヌ国際映画祭でこの作品のためだけに“一目惚れ賞”なるものが急きょ設立されたり、イスラエル・アカデミー賞では作品賞をはじめ8部門を受賞したりと前評判の高さも、今回の結果を予感させていた。日本では12月にロードショー公開が決まっており、今後さらに注目を集めるはずだ。
審査員特別賞を受賞した中国と日本の合作映画『思い出の西幹道(仮題)』も期間中、批評家や観客の間で人気が高かった一作だ。1978年、文化大革命の影が色濃く残る中国の小さな町を舞台に、1人の少年の初恋と切ない思いをノスタルジックに描いた同作は、素朴だが胸を打つ映像の美しさが印象的。また、来日した主演女優、シェン・チアニーの透明感あふれる美ぼうも話題となり、“ちょっと地味”と揶揄(やゆ)されていた今年の映画祭を華やかに彩ってくれた。85分間の全編をワンカットで撮影したイタリア映画『ワルツ』が最優秀芸術貢献賞を受賞したが、その芸術性の高さとそれを支えたスタッフの技術、キャストの努力を考慮すれば当然の結果といえるだろう。最終日に行われた受賞記念の会見で、サルバトーレ・マイラ監督が「次回作は2時間ワンカットで撮影する」と宣言すると、同席した女優のマリーナ・ロッコが苦笑しながら頭を抱える一幕も。失敗できない撮影の苦労が伝わった。
※ワンカット:カメラを長まわしして撮影したもの。


『迷子の警察音楽隊』
毎年、東京サクラグランプリと同じくらいその動向が注目されるのが観客賞である。過去にも『大統領の理髪師』『リトル・ミス・サンシャイン』など、受賞後に劇場公開され好成績をマークした作品は多い。今年、観客賞を受賞したのはドイツ映画の『リーロイ!』だった。ドイツ国籍の黒人青年の恋を通して、決して消えることのない人種差別の問題をキャッチーに描いた内容は、ここ日本でも大いに観客の共感を呼んだ。期間中、来日した主演俳優、アライン・モレルの愛嬌(あいきょう)たっぷりで飾らない素顔も、映画ファンの心をがっちり捕らえたようだ。
『リーロイ!』(C) David Balzer
『迷子の警察音楽隊』
エラン・コリリン監督
『思い出の西幹道(仮題)』
リー・チーシアン監督
ピーター・ハウイット監督
『デンジャラス・パーキング』
シェファリー・シャー
『ガンジー、わが父』
ダミアン・ウル
『トリック』
『ワルツ』
サルバトーレ・マイラ監督
『リーロイ!』
アルミン・フォルカース監督
『シンガポール・ドリーム』
イェン・イェン・ウー監督、コリン・ゴー監督
『ダンシング・ベル』
ディーパク・クマーラン・メーナン監督
『実録・連合赤軍-あさま山荘への道程』
若松孝二監督
『子猫の涙』
森岡利行監督
デヴィッド・パットナム卿