2月末に開催された第79回アカデミー賞では、受賞は逃したものの日本人女性として49年ぶりに助演女優賞にノミネートされ、一躍時の人となった『バベル』の菊地凛子。アカデミー賞を終えた現在の心境や、自身の環境の変化、聴覚障害をもつ女子高生チエコという役に挑んだいきさつ、そして女優としての姿勢など、様々なことを語ってくれました。
ありがとうございます。皆さんが想像しているとおり、アカデミー賞は本当にいい経験でした。25歳という若さであの場に立てたことは何ものにも代えがたいですし、私を支えてくれた家族や仕事仲間、友達など多くの人に喜んでもらえたことは、とても嬉しいことでした。授賞式は、すごく長いレッドカーペットにたくさんの人がいて、皆さんスピーチも楽しかったですし、歌ありコメディありで、本当に面白いひとつのエンターテンメント・ショーを見せてもらったという感じでしたね。
周りの環境が変わっているのは確かで、私もそれは実感しています。これまで単なる「菊地凛子」だったのに、今では「“『バベル』に出た”菊地凛子」「“アカデミー賞にノミネートされた”菊地凛子」といったように、枕詞がつくようになりました。でも、そうなった以上、右往左往しても仕方がないので、変化を受け入れつつ、今やるべきことはひとつひとつ丁寧に仕事をしていくことだと思っています。自分自身、“菊地凛子がこれからどうなる”ということには興味がなくて、本当にいい作品に、いい監督に、いい役柄に出会って、そこからいろいろなことを吸収し、責任をもって真摯にやれることをやっていく以外にないと思っています。
菊地さんの演技を見て、演技というのは言葉を超えるものだと実感しました。世界に出て仕事をすることは、以前から思い描いていたことなのでしょうか?メキシコの監督と一緒に仕事をするなんて、想像もしていなかったです。私は、日本で女優としてやっていかれるかどうかもわからなくて、いつまでこの仕事を続けられるのかという不安や危機感、恐怖感もありました。そうしたところに、たまたま私のリスペクトしているアレハンドロ(・ゴンザレス・イニャリトゥ)監督が現れて、しかも日本で映画を撮る。なおかつ英語が必要ない。そんなチャンス、もう2度とないかもしれないですよね。
確かに役の設定は16歳と実年齢より離れていますし、監督は当初、本物のろう者の女優を求めていたということもありました。そうした状況に対して私ができることは、自分からアプローチしていく以外なかったんです。最初で最後の機会ですから、飛び込んでいくしかないと。ハードルは高かったですが、高ければ高いほど挑戦しがいがありますし、落ちてもいいという覚悟をもって臨んだ1年間のオーディションのプロセスは、いろいろなことを教えてくれて、精神的にとてもいい時期を過ごせたと思います。